動物の形態形成に対する胚サイズの意義を明らかにするため、胞胚のサイズ変更に伴う原腸形成期前後の形態形成変異の継時的な観察、胚サイズの復元ないし大型化の試み、また原腸胚期以後のその他の形質との関連についてゼブラフィッシュを用い検討した。胞胚か照直径約20〜30%(体積比で約50〜65%)分を超える卵黄細胞を取除くと、背中側へ変形した胴尾部が生じることをすでに昨年度確かめた。これらの小型胚の発生過程を継時的に観察すると、被覆運動には滞りが無いが、卵黄閉鎖はむしろ正常脛よりも早期に生じ、胚盤縁辺域の拡大・縮小過程が正常胚と異なるタイミングで起っていた。これは細胞運動が小型化した胚のもと正常な速度で進行したためと思われた。卵黄閉鎖後、正常胚の胴尾部は卵黄細胞に貼付く形で形成を始めるが、小型胚ではおしなべて背側に突出する異常な形態を示した。しかし一部の小型胚は胴尾部の伸長に伴い徐々に正常な形態へと移行し、可塑的な修復あるいは多形発生が起こったと思われた。同様に胚サイズの大型化については卵黄細胞の移植を行っていたが、より自由度の高い実験系が必要であった。生理活性の低い油球の注入などを検討しているが、現在のところ再現性や簡便性の観点からは良好な結果を得るに至らず進展は乏しかった。原腸胚期以後の胴尾部に生じる重要な器官原基のひとつに体節がある。正常胚の体節数は平均30個(±1弱)であるが、胚サイズの小型化による体節数の変化は無く、個々の体節サイズはより小型に調節された。一方、特に細胞質を多く含んで大型化する場合には体節数が増加したため、'体節サイズを大型に調節する能力には限界があるらしい。ただし、大型化の実験系は前述の通り発展途上で、今後より厳密な確認が必要である。本年度の研究から、胚サイズという物理的環境が形態学的多型の出現にあたえる影響について多くの示唆が得られた。
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