ワンショットエコーから物体の形状を推定するには、「反射強度分布」と位置情報である「外耳伝達関数」の両方を抽出する必要がある。コウモリの外耳伝達関数にはスペクトル・ノッチが存在し、このノッチ周波数が音の入射方向に依存して変化していることがわかっている。このような外耳伝達関数を用いた工学的システムを構築するには、位置情報を抽出可能な模擬外耳が必要不可欠となる。しかしながら、これまでに位置推定に適当な模擬外耳の形状は明らかになっていなかった。そこで、ホーンを斜めに切った模擬外耳の伝達関数を測定解析し、ホーンの中心角、切り角、ホーン長を変えて伝達関数の入射方向依存の変化を明らかにした。位置定位に適当な外耳の条件として、伝達関数にスペクトル・ノッチが存在し、このノッチ周波数が入射方向依存に大きく変化し、広い入射範囲でノッチが存在するものとした。これらの条件を用いて、位置推定に適当な模擬外耳の形状は、中心角が25度、切り角が45度、ホーン長が7ミリメートルから10ミリメートルと決定できた。実際にこの模擬外耳を用いて、広帯域FM音を用いて、エコーを測定した。2つの受信点で得られたエコーの遅延時間から奥行きを、エコーのスペクトルのノッチ周波数から物体の方向を求めた。奥行きは10ミリメートル以内、水平・垂直方向とも1度以内の精度で推定できることを確かめた。 この模擬外耳を用いて、動いている物体からのエコーを測定できるシステムを製作した。送受波システムは1つの超音波用スピーカと2つの超音波用マイクから構成され、模擬外耳はマイクの先端部に装着した。
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