ワンショットエコーから移動物体の形状を推定するには、ドップラーシフトの影響を除去して「反射強度分布」と位置情報である「外耳伝達関数」の両方を抽出する必要がある。特にコウモリのエコーロケーションの場合、昆虫等の餌を捕獲するためにエコーから物体形状の特徴を抽出する必要がある。このような対象物体の場合、頭部や羽などの複数の反射点の集合として物体の形状を表すことができ、この反射点の奥行きと反射率の関係を「反射強度分布」と呼ぶ。コウモリも昆虫も飛行しているため、これらの間の相対速度に依存したドップラーシフトの影響をうけている。したがって、エコーからドップラーシフトに依存しない「反射強度分布」の情報を抽出する必要がある。線形周期変調音(LPM)の瞬時周波数の時間変化はドップラーシフト量に依存しないので、移動物体の奥行推定に有用であることがわかっている。しかしながら、LPM音を用いて正確に反射強度分布を推定する計算手法は提案されていなかった。そこで、ガウス分布の振幅特性をもち、LPM音の変調に合わせた位相特性をもつチャープレット・フィルターを提案し、この提案フィルタを用いてエコーを時間周波数解析した。解析された振幅スペクトルの時間変化から最初の物体の奥行を推定し、干渉パターンの時間変化から物体間の奥行き差を順次推定していくことで、複数物体の奥行と反射率の両方、つまり、反射強度分布を推定する手法を提案した。実際に奥行が近接し、異なる反射率をもつ反射強度分布にたいしても正確に推定することができることを確かめた。
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