18年度と19年度は、Amit型連想記憶モデルでIT野の顔認識ニューロンの生理学実験をより広く説明できる可能性を示した。20年度は、生理学実験との比較から離れ、本研究で使用しているAmit型の連想記憶モデル自体の包括的性質の調査に焦点を置いた。その目的は、Amit型連想記憶モデルがIT野の生理学実験を説明できる一方で、矛盾する性質も内在しないかを調べることと、単に生理学的知見と一致することを示すのではなく、情報処理装置として有効モデルと言えるかを示すことである。 まず、Amit型連想記憶モデルが獲得するアトラクタの種類を可能限り探した。これまでは、生理学的知見を説明しうるアトラクタの存在は分かっていたが、詳細に調べると、未知のアトラクタが膨大な数存在することが分かった。ただし、粗実験のレベルではあるが、未知であったアトラクタの引き込み領域は非常に狭く、実際には想起されないことが分かった。よって、従来から知られていたアトラクタのみが実際には想起しうるものであり、Amit型連想記憶モデルで生理学的知見を説明できるとした仮説は崩れないことが分かった。 次に、情報処理装置としての有効性を調べた。Amit型連想記憶モデルは、記憶パターンの学習順番の情報をアトラクタ間の相関の強さとして格納する。これは生理学的知見と合致する大きな性質である。しかし、学習順番に、例えばランラム性などが入った場合、アトラクタの性質がどのように変化するか知られていなかった。調査の結果、ランダム性が入るとアトラクタ間の相関関係は壊れることが分かった。学習順番に相関がない場合は、アトラクタの相関もなくなるので、リーズナブルな性質である。以上から、Amit型の連想記憶モデルが情報処理装置として有効である可能性を示せた。
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