本研究の目的は、複雑な時系列処理を司る神経モジュールの相互作用を解明することである。昨年度に引き続き、複雑な時系列からなる歌を生成・学習することのできるジュウシマツという小鳥を用いて電気生理実験を行った。 歌制御系の中でも主に系列制御に関わると考えられているHVCから単一細胞記録を行い、作り得る全ての歌要素ペア刺激に対する聴覚応答を調べた。HVCニューロンはそれぞれに異なるけれども緩い系列応答特性を持つことを明らかにした。こうした緩い選択性を持った応答に時系列情報が埋め込まれているか定量的に調べるため、相互情報量解析を行った。その結果、一音目と二音目の関係性を示す関連性情報量が統計的に有意な増大を示すことを明らかにした。以上の結果より、ジュウシマツHVCにおいて歌要素系列情報がポピュレーションレベルでコードされていることが明らかとなった。 HVCに限らず小鳥の脳における神経核は非常に小さいため、これまでに神経核同士の相互作用は調べられてきたが、一つの神経核の局所回路における相互作用については技術的制約から調べられてこなかった。そこで、狭い領域に多数の記録点を配置できるシリコンプローブ(8×4=32ch)を用い、HVCから同時に複数のニューロン活動を記録するためのシステムを確立した。最大で互いに異なる26ニューロンの活動を同時に記録することに成功し、それらの相互相関係数からHVC局所回路における機能的ネットワークを抽出することができた。以上の結果は、複雑な時系列処理を可能にする局所回路内相互作用の解明へと繋がる、世界に先駆けた成果である。
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