哺乳類では、毎日一定の時間帯でのみ餌が得られる環境(制限給餌)に置かれると、行動や様々な生理機能の概日リズムが摂食のタイミングに同期する。この食餌同期性の概日行動パターンは、視床下部視交叉上核(SCN)とは独立の生物時計(食餌同期性クロック、FEO:food-entrainableoscillator)により支配されると考えられているが、食餌同期性クロックの存在部位は明らかになっていない。 申請者は時計遺伝子Per1の発現リズムを指標に用い、視床下部背内側核(DMH)が食餌同期性クロックとして機能する可能性を示した。食餌同期性クロックがいかにして食餌によって制御され、いかにして食欲・食行動を支配しているかを解明すべく、(1)食餌同期性クロックが機能しないトランスジェニックマウスの作成・解析、(2)食餌同期性クロックの入出力神経回路の同定、(3)食餌同期性クロックニューロンで発現している分子の同定、について研究を進めている。(1)についてはCre依存的にCry1(過剰量存在すると時計機構が機能しない)を過剰発現するノックインマウスを作成し現在解析中である。このマウスでDMH特異的にCreを発現し、DMH食餌同期性クロックを特異的に阻害することが目的である。(3)については、DMH食餌同期性クロックニューロンで発現する二つの神経ペプチドを見いだし、現在これらの神経ペプチド遺伝子欠損マウスでの食餌同期性概日リズムを解析中である。さらに、GeneChipを用いて食餌同期性クロックニューロンで発現する遺伝子の網羅的検索を行い、DMH Per1発現ニューロンに限局した発現を示す、分泌因子、転写因子等、興味深い遺伝子が8個同定された。今後詳細な発現解析を行うと共に、ノックアウトマウスを用いて個体レベルでの食餌同期性概日リズムにおける機能を検討する。
|