本研究の目的は、stargazin分子群がAMPA型グルタミン酸受容体チャネルをどのような分子機構で調節するのかを個体レベルで検証し、その生理的役割を解明することである。そのためにstargazin分子群の中でも小脳に強く発現するγ-2およびγ-7サブユニットを欠損するマウスを作製した。C57BL/6系統ES細胞から作出したγ-2コンベンショナルノックアウトマウスは、自然発生型ミュータントマウスStargazerと同様に欠神てんかんと運動失調が見られ、小脳AMPA型受容体タンパク発現量は特にPSD(Postsynaptic density)画分で約60%に減少していた。一方、γ-7コンベンショナルノックアウトマウスは外見上、表現型はなかったが、小脳でのAMPA型受容体タンパク量はPSD画分で80%に減少していたため、γ-2/γ-7は小脳のAMPA型受容体のシナプス部位への輸送とチャネル機能発現に関与していると考えられる。γ-2/γ-7ダブルノックアウトマウスはγ-2コンベンショナルノックアウトよりもさらに重篤な運動失調を呈し、小脳ではGluRα1サブユニット以外のAMPA型受容体サブユニット発現が激減していた。解剖学的にもプルキンエ細胞へのシナプス形成の異常が認められたため、このマウスではシナプス伝達が異常であることが考えられる。また、γ-2欠損マウスの運動失調の原因となる細胞種を同定するため、コンディショナルノックアウトマウスを作製した。小脳プルキンエ細胞特異的にγ-2を欠損させたマウスでは顕著な運動失調は認められなかった。
|