現実の立体的な視覚情報から平面的な位置関係への変換、また逆に図上の平面的な視覚情報から立体的な位置関係への変換は、我々の日常生活で重要な役割を果たしている。日常生活における空間認知に近い形での空間認知課題を行っての神経科学的研究は行われているものの、図形の形と配置の対応させる数学的能力関係する脳活動を明らかにした研究はまだない。そこで本研究では、二次元-三次元間の図形・立体間の変換課題を作成し、その課題遂行中の被験者の脳の局所血流変化をfMRIによって測定し、 1)二次元図形(2D)から三次元立体(3D)への変換 2)三次元立体(3D)から二次元図形(2D)への変換 の認知および処理に関連する脳活動を示す部位と脳活動レベルの差異について調べた。 3D→2D配置変換課題に特異的な脳活動は、主に両側前頭前野、右上頭頂小葉(SPL)、両側下頭頂小葉(IPL)、右海馬傍回、左小脳で見られた。 本研究の結果から、二次元から三次元への変換および三次元から二次元への変換の遂行中に脳内で行われる空間情報認知の過程として、以下のモデルが推測される。まず一つ目の刺激の空間情報がV1へ入力され、SPLおよびIPSを含む頭頂領域で処理される。さらに前頭前野で作業記憶として保存される。次に二つ目の刺激の空間情報がV1へ入力され、頭頂領域で処理される。そして前頭前野で保存されていた一つ目の刺激の空間情報が読み出され、海馬傍回で頭頂領域で処理された二つ目の刺激とのマッチングが行われるのではないかと考えられる。 さらに本研究では、本来運動制御に関連するとされている小脳に賦活が見られた。小脳が空間認知においてどの過程に関わっているのか明確に言及することはできないが、空間認知に何らかの関連があるという可能性を示唆した。
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