数学は我々の文化・文明・日常生活の中で重要な役割を果たしており、数学の能力は教育や科学技術レベルの維持・向上のために重大な関心事である。数の知覚や計算は文化的な発明以上のものであり、脳の進化の過程で獲得されたものだと考えられる。というのも、数の感覚や初歩的な計算は訓練されていない動物にも存在し、就学前の幼児や言語獲得以前の小児も同様の能力を持つからである。そこで本研究では、数学的能力にどのような脳の部位が関係しているのか、またそれらの脳部位がどのように結合しているのか明らかにするために、人体への侵襲なく脳の機能および形態を測定できる機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging ; fMRl)を用いて、数学的処理能力に関する脳活動を比較し、それぞれの脳機能に特異的な部位を抽出した。 まず二次元(2D)一三次元間(3D)の図形・立体間の変換課題を行っている最中の脳をfMRIを用いて計測し、データを解析して課題遂行中に活動する脳領域を特定した。3D→2D配置変換課題と2D→3D配置変換課題ともに中前頭回、下前頭回、上・下頭頂小葉、楔前部、中側頭回、海馬傍回、上後頭回、中後頭回、小脳半球後葉に統計的に有意な脳活動が見られた。次に3D→2D配置変換課題と2D→3D配置変換課題遂行中の脳活動を比較したところ、3D→2D配置変換課題でより強い活動が見られたのは、両側中前頭回、左下前頭回、および小脳虫部、左半球後葉であった。さらに、これらの活動部位の結合について、時系列解析法と情報理論を用いて脳領域間に流れる情報量の時間変化を推定したところ、左下頭頂小葉から左中前頭回、また左中前頭回から両側下頭頂小葉への大きな情報量の流れが見られた。一方、2D→3D配置変換課題に特異的な脳活動は統計的に有意ではなかった。
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