研究概要 |
本研究は、ショウジョウバエ脳において学習記憶中枢として機能するキノコ体の神経構造に着目し、その位相的な軸索層構造がどのように作られるか,その分子基盤の探索を目的とする。キノコ体の位相的な軸索層構造の確立には、新生神経による軸索群の集束と軸索層構造の中核領域への選択的な投射が必須である。これまでの解析によって、この新生神経において特異的に発現する分子として、細胞接着分子N-cadherin(N-cad)と受容体型チロシンフォスファターゼRPTP(PTP10D,69D,99A,DLAR)を同定している。今年度は、これら4種の受容体型チロシンフォスファターゼの詳細な機能解析を行った。その結果、キノコ体の形成過程において、PTP10Dは、軸索の正確な伸長と新生神経の選択的な束形成に必要であることが明らかになった。PTP69Dは軸索の分岐と束形成に、DLARは軸索伸長の正確な制御に必要なことが明らかになった。PTP99Aでは、明確な変異体表現型を伴わなかった。これら4種のRPTPは構造的に類似しているが、キノコ体軸索系における役割が部分的に異なる事が興味深い。また、PTP69Dの表現型は、アクチンの脱重合反応を制御するCofilin,LIMKのキノコ体表現型と極めて類似しており、これら分子との相互作用をする可能性が考えられる。これらの結果は、学術雑誌(Molecular and cellular neuroscience)に掲載された。 一方、キノコ体の大規模な神経層構造を形成するためには、特異的神経幹細胞が継続的に分裂を行い、神経を供給し続けなくてはならない。この特徴的な幹細胞の分裂に転写因子taillessの活性が必須であることを明らかにし、現在学術雑誌に投稿中である。
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