研究概要 |
発生中の神経軸索先端部に現れる成長円錐は,外界の微小環境を受容しその運動性を変化させることで軸索を正確な標的へと牽引する。標的までの経路を正しく選択するために,成長円錐には過去に辿った経路や受容した刺激に応じて同一のガイダンス因子に対する応答性を切り替える能力が備わっているが,このような成長円錐の可塑性・記憶を司るシグナル分子の実体およびその作用機序については不明である。生理活性物質である一酸化窒素は,成熟脳において学習・記憶等の脳機能に深く関与しているが,神経発生期における役割については不明の点が多い。本研究では,成長円錐運動の可塑性制御機構における一酸化窒素の役割を解明し,神経軸索投射経路を細胞レベルで記憶する分子機構の一端を明らかにすることを目的としている。 平成18年度は,成長円錐の反発性旋回運動に対する一酸化窒素-cGMP経路の関与を解析した。まず鶏卵胚培養脊髄後根神経節細胞の成長円錐に対してケージドカルシウム光解離法を適用し,成長円錐の反発性旋回運動を誘発した。この皮発性旋回運動は,一酸化窒素合成酵素阻害剤・一酸化窒素消去剤・可溶性グアニル酸シクラーゼ阻害剤処理により誘引に変化した。同様に,一酸化窒素合成酵素遺伝子欠損マウスから摘出した成長円錐においても,反発性旋回は誘発されなかった。続いて,生理的なガイダンス分子の濃度勾配により誘発される成長円錐反発性旋回に対する一酸化窒素の関与も明らかにした。さらには,エンザイムイムノアッセイにより細胞内cGMP濃度を定量したところ,反発性旋回運動を呈する細胞の細胞質中には比較的高濃度のcGMPが含まれていることが示された。以上の結果から,発生期の脊髄後根神経節細胞の反発性軸索ガイダンスには,一酸化窒素-cGMP経路が深く関与していることが証明された。
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