脊椎動物の精緻な中枢神経系においては、異なる神経細胞集団に由来する軸索繊維は、それぞれ特定の標的細胞へ投射するだけでなく、同一の標的細胞に投射したとしても樹状突起内の特定の異なるセグメントに対して投射しシナプスを形成する。このようなセグメント特異的シナプス結合によって、複数の異なる情報は適切に処理・統合されると考えられる。我々はこれまでに、異なる軸索上に分布する膜タンパク質netrin-G1およびnetrin-G2が、各々特異的な受容体分子NGL-1あるいはNGL-2(NAG14)を特定の樹状突起内のセグメントに集積させていることを明らかにした。本年度は、netrin-Gとその受容体の特異的相互作用により規定されるシナプス機能の解明を目的として、まず(1)netrin-G/受容体NGLの下流分子を探索した。酵母two-hybrid法により、NGL-1およびNGL-2の細胞内領域と相互作用する分子群をスクリーニングした。複数の候補分子の部分配列が得られ、データベース上でこれらの分子種を同定した。その結果、ポストシナプス関連分子およびアクチン骨格制御に関わるアダプタータンパク質などが含まれ、NGLがポストシナプス機能やシナプス形態形成を制御することが示唆された。(2)既に作製済みのnetrin-G1あるいはnetrin-G2遺伝子欠損マウス2系統を用いて、海馬ニューロン各層のスパイン密度および形態を解析するため、蛍光色素DiIを用いた標識および電子顕微鏡解析の最適な方法を確立した。(3)NGL-1およびNGL-2遺伝子欠損変異マウスの作製を行った。NGL-2については、変異マウス系統の樹立に成功した。抗NGL-2抗体および抗NGL-1抗体を用いた免疫組織学染色により、ホモ接合体ではNGL-2を欠損すること、またNGL-1の機能代償的な発現はみられないことを確認した。NGL-2変異マウスの脳では、明らかな解剖学的異常は見られず、現在netrin-G変異マウスと平行して、シナプスレベルでの形態解析を進めている。
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