非必須アミノ酸の1つであるL-セリンは、培養ニューロンの生存や分化を促す強力な神経栄養因子の効果があることがわかっている。しかも、L-セリンは解糖系の中間体3-ホスホグリセリン酸を材料として合成されるが、その合成過程に不可欠な合成酵素3-ホスホグリセリン酸脱水素酵素(Phgdh)の脳内での発現解析から、ニューロンにはL-セリンの合成能力はなく、専らグリア細胞が合成していることが知られている。本研究では、マウス網膜でのPhgdhの発現解析を免疫組織化学的に行った。蛍光抗体多重染色法によりPhgdhは、カルレチニン陽性のアマクリン細胞や神経節細胞などのニューロンとは共染色されないが、glutamine synthetase陽性のミュラー細胞やGFAP陽性のアストロサイトと共染色された。その結果、成熟マウスの網膜ではPhgdhがグリア細胞であるミュラー細胞とアストロサイトに発現が見いだされた。また、免疫電顕法によってもPhgdhがグリア細胞に発現していることを確認した。これらの結果は成熟マウス網膜においてグリア細胞が網膜の神経細胞にL-セリンを供給していると示唆している。また、Phgdhのノックアウトマウスを用いて網膜組織形態を調べた。このノックアウトマウスは胎生致死であるため、胎仔期の網膜を調べたところ、胎仔期13.5日での網膜は本来規則正しい多層状からなる神経層が形成されるが、ノックアウトマウスでは眼球は縮小し、神経層が乱れる構造が観察された。このことから3-ホスホグリセリン酸脱水素酵素は発達期での網膜でも生存、分化に重要な役割があると考えられる。
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