本研究の目的は、大脳皮質神経前駆細胞が如何にして多種多様な細胞群を時期特異的に生み出すのかという問いに、発生工学及び分子生物学的手法を駆使して明らかにすることである。研究の進行は研究計画に従い、当初の目的を達成すべく順調に行われた。研究実施期間の前半は、子宮内電気穿孔法を用いてマウス胎児の神経前駆細胞へ活性化型NotchとCDKインヒビターの一つであるp18Ink4cを一定期間(El2.5-15.5)強制発現させたのちCre-loxPシステムによりその発現を停止させ、細胞周期を一定期間停止させることによる神経前駆細胞の性質変化に対する影響を観察した。その結果、対照群(活性化型Notchのみを発現)では、発現解除後の細胞は大脳皮質上層に存在し、Brn2等の大脳皮質2/3層のマーカー分子の発現が認められた。一方、実験群(活性化型Notchとp18Ink4cを発現)では、発現解除後の細胞は大脳皮質全体に散在し、その形態はオリゴデンドロサイト様であった。これらの結果から、神経前駆細胞における正常な細胞運命決定において、細胞周期の調節が非常に重要な役割を担っていること示すことができた。研究実施期間の後半では、異なった発生時期の神経前駆細胞に発現する遺伝子群を検索し、神経前駆細胞に時期特異的に発現する遺伝子の候補を単離することに成功した。以上の結果は、現在まで哺乳類においてはほとんど解明されていなかった、幹細胞の時間軸における性質変化という分野の突破口となる萌芽的研究として今後更なる発展が期待される。
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