1.本年度はこれまで進めてきたタウオパチーモデル線虫を用いたGene Chip解析を終了し、その結果をもとにRNAi法によるさらなる絞り込みを進めた。はじめに、神経系に対するRNAiの効果を確実にするためGene chipに用いたpan-neuronal tauのラインを、RNAiに対して感受性の高いrrf-3変異体にバッククロスした。つづいて、一部の候補遺伝子について実際のRNAi解析を進めた。現在までに期待される効果を示したものは捕らえられていないものの、候補遺伝子はまだ多く残っており、今後のさらなるスクリーニングが期待される。Gene Chip解析の結果からインスリン受容体経路の下流に位置する遺伝子群が規則的な発現変化を示している事実を捕らえた。この経路のタウオパチー神経変性への関与を検討するため、pan-neuronal tauのラインとインスリン受容体経路の主たる転写因子であるDaf-16の欠損株、あるいは過剰発現株を掛け合わせ、その効果について検討した。その結果、Daf-16の欠損においてもタウによる神経機能異常は維持された。同時に、タウとDaf-16の直接の会合、タウによるDaf-16の機能阻害の可能性について培養細胞を用いた実験系を確立し、解析した。その結果、タウの過剰発現はDaf-16の機能を阻害しないことを見出した。以上より、タウオパチー神経変性経路としてインスリン受容体経路の関与は無いか、あるいは他の経路が主であるとの結論に至った。 2.一方、タウオパチー神経変性を抑制する因子としてHsp70発現の効果を検討した。Hsp70は誘導性の分子シャペロンであり、タウの異常構造を修正することによりタウオパチー神経変性を抑える効果が期待された。詳細な解析の結果、Hsp70の発現はタウ線虫の神経機能障害を軽減する傾向が見られた。しかし、タウ発現量の定量が不十分であり、効果に対する結論を得るにはさらなる解析が必要であると判断された。
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