前年度までの胎生期ATF-2欠損マウスの研究から、カテコールアミン神経のTH発現と神経突起伸長を適正に行うためにATF-2が必須であることが示唆され、非リン酸化型のATF-2はTH遺伝子転写制御におけるリプレッサーとして機能すると考えられた。神経栄養因子やTGF-βのサブタイプはカテコールアミン神経の分化発達に必須であり、ATF-2をリン酸化/活性化することが知られている一方で、ATF-2のリン酸化はアポトーシスの指標とされ、神経細胞死を誘起するとされている。本年度は、神経の分化発達に特異的なATF-2リン酸化機構の探索を行った。分化生存および細胞死の両シグナルにおいて共通な転写活性化部位Thr69/71以外で、分化生存シグナルとして機能するMEK-ERKシグナルでリン酸化されるモチーフのうち、Ser112に着目して解析を行った。Ser112リン酸化抗体を作出し、PCI2D細胞におけるウェスタンブロット解析を行った結果、Ser112リン酸化は神経成長因子(NGF)刺激で亢進した。Ser112リン酸化抗体の特異性は、ATF-2総タンパク質に対する免疫沈降実験ならびにATF-2過剰発現実験で確認した。NGFによるSer112リン酸化はMEK阻害剤でほぼ完全に抑制された。また、Ser112リン酸化は、アポトーシス刺激ではほとんど誘導されなかった。さらに、NGF刺激によりThr69/71リン酸化が核内で一過性に亢進するのに対し、Ser112リン酸化は、核外膜画分で持続的に誘導された。これらの結果は、Ser112リン酸化は、ATF-2が分化生存シグナル分子として機能するための重要な機構である可能性を示唆しており、さらに、神経分化・生存を制御する転写因子の核外機能という新しい分子機構の存在を示唆している。
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