中枢神経系のシナプス伝達において、シナプス前終末でシナプス小胞の開口放出が障害されることで、脳の高次機能にどのような影響を与えるか検討した。そのため、開口放出を制御するSNARE蛋白質の欠損マウスを用いた解析を行った。神経細胞のSNARE蛋白質は、形質膜にシンタキシン1(STX1)、SNAP-25が発現している。このうちSTX1は、STX1AとSTX1Bの2つのアイソフォームが発現している。はじめに、STX1A欠損マウスを作成し、その解析を行った。In vitroでの実験結果と異なり、このマウスでは基本的なシナプス伝達に異常はみられなかったが、記憶、認知機能に障害が認められた。興味深いことに、これらの異常の一部はセロトニン作働薬の投与により改善された。そこで、セロトニン分泌について解析を行った結果、STX1A欠損マウスではその分泌が顕著に抑制されており、セロトニン刺激により促進される神経機能の障害が認められた。これらの結果から、STX1Aを欠損したときのその大部分の機能はSTX1Bにより代償されうるが、セロトニンなどの一部のシナプス伝達は代償できないことが示唆された。つまり生体内でSTX1AとSTX1Bがやや異なった機能を持つ可能性が推測される。そこで、STX1B欠損マウスの作成を試み、その解析を行った。STX1B欠損マウスは、STX1A欠損マウスと異なり、生後14日までに致死となった。これまでの解析から、その障害は小脳で顕著であり、運動機能障害がその致死となる直接の原因のようである。また、STX1Bのヘテロマウスでは高頻度に痙攣発作を認めた。現在、このマウスでのシナプス伝達の詳細について検討を行っている。このように、当初は同じ機能を持っていると予想されたSTX1AとSTX1Bの欠損マウスで異なる表現型が認められたので、SNAP-25欠損マウスの解析もあわせて行っている。
|