霊長類は、視力の最も良い中心窩を視覚対象に向け続けることにより、視覚情報を適切に取り込むことができる。視覚対象がゆっくり動く場合に使われる滑動性追跡眼球運動は、網膜速度誤差情報を眼球運動信号に変換することにより実行されるが、この眼球運動中に連続的に視覚情報を取り込むことが要求されるため、視覚対象の動きに合わせて反応時間の遅れを補償して運動を実行することが必要になる。このためには視標運動の予測値が必要になり、その条件を満たす応答特性を持つニューロンは、前頭眼野に存在するが、どのようにしてその信号が形成されるかは未だに不明である。本研究では視標運動の呈示から眼球運動の発現までを種々の局面に分けた課題をサルに訓練し、前頭眼野、補足眼野とMST野がそれぞれの局面にどのように関わるかを明らかにすることを目指した。具体的には、中央の静止点を固視中に、cueとして、後で要求する追跡眼球運動の方向(上下、左右、あるいは45°方向)をランダムドットの動く方向で知らせた。3-5秒間の遅延時間の後、静止スポットがcueで呈示された方向と逆方向の2方向に分かれて同時に一定速度で動くが、cueで呈示された方向に追跡することにより報酬を与えた。これにより視覚刺激としての運動方向、その作業記憶、追跡眼球運動の実行のそれぞれの局面を分離させた。これまでニホンサル一頭で訓練を終え、前頭眼野から課題関連ニューロンを記録している。予備的な結果として、滑動性追跡眼球運動に強く応答したニューロンは、運動の実行のみで応答し、これらとは別に、視覚応答ニューロンと、遅延時間中に方向特異的に応答を示したニューロンが記録された。今後さらに、記録ニューロン数を増やして、前頭眼野がこの課題に果たす役割を明らかにする。
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