今年度の研究では、ナノスケール構造体の可視化・局所刺激を目的とした実験装置のセットアップ構築から開始した。これは顕微鏡やパッチクランプ装置におけるキャリブレーションを測定し、実際に神経細胞を用いた実験に応用するためである。神経細胞において、生体内で起こる化学反応や物理応答の即時応答性を見るためには、細胞内物質を光で制御する手法が有効であると考えた。実際の細胞を用いた実験においては、モデル神経細胞として、酵素処理を行って単離した嗅細胞を用いた。単離嗅細胞にはホールセルパッチクランプ法を適用し、ケージド化合物を同時適用することで、光によるケージド乖離によって引き起こされる電流応答を記録することが可能となる。記録電極よりケージドcNMPを細胞内に導入した後、ボルテージクランプモード下で、UV光刺激を行った際に得られたcAMP電流を記録することによって、細胞内酵素の動向をリアルタイムでモニターすることが可能となった。嗅細胞における匂い応答カスケードをケージド乖離による応答電流発生によって再描画することが可能であるため、この手法は非常に有効であるといえよう。UV光刺激においては、シリアを部分的に照射することで、微小な電流応答をリアルタイムで記録することができ、局所電流を測定することでシリアの電気生理学的な特性が明らかとなった。 更に細胞内には蛍光物質を導入しているため、照射光の最適波長を用いることで、ナノスケール構造を持つ嗅細胞シリア(繊毛の直径100-200nm)の可視化が可能となった。本年度は実際に生きたままの細胞における微小構造体を鮮明に見ることができ、同時に電気生理的記録を取得するシステムの初期バージョンを構築することができた。来年度以降は、システムの更なる向上を行い、詳細な記録・解析を行う予定である。
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