サッケード眼球運動のダイナミクスの制御について皮質野を含めた高次中枢神経系による制御機構を明らかにするために、平成18年度においては一次視覚野を損傷したニホンザルにおいてサッケード眼球運動を用いた行動課題を訓練し、その運動パラメータを記録した。一次視覚野損傷後の回復過程に予想以上の時間を必要としたが、現在までのところ、視覚誘導性サッケード数万試行分の運動パラメータのデータを記録しており、順次解析を行っている。これまでの解析の結果、以下のような傾向が観察されている。 1.サッケードの振幅(Amplitude)と速度(velocity)、および運動時間(Duration)の間には安定して保存された関係(main sequence)があることが知られているが、この関係が一次視覚野の損傷によって大きく変化することはなかった。このことはmain sequenceは皮質下の、おそらくは上丘を中心とする眼球運動制御機構によって決定されていることを示唆している。 2.一方で、サッケードの終点は一次視覚野の損傷によって大きく影響を受けた。標的刺激からの距離(saccade error)は損傷視野において著しく増大し、サッケードの制御機構になんらかの機能的な障害が発生したことを示唆している。また、サッケードの開始時の運動ベクトルの方向は損傷視野と健常視野において大きな差異はなく、これは健常視野へのサッケードはサッケード眼球連動遂行中に運動方向の修正が行われているが、この修正機構が一次視覚野の損傷によって傷害されていることを意味する。 以上の結果から、サッケード眼球運動の制御における皮質野の機能を示唆する行動学的データを得ることができたと考えている。今後はより詳細なデータ解析を行うと共に、データから得られた仮説に基づいて電気生理学的実験を行う予定である。
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