サッケード眼球運動のダイナミクスの制御について皮質野を含めた高次中枢神経系による制御機構を明らかにするために、平成19年度において一次視覚野を損傷したニホンザルにおいてサッケード眼球運動における運動パラメータを記録し、電気生理学的実験の準備を行った。一次視覚野損傷後の回復、及び訓練課程に当初の予定以上の時間を要したため、本格的な電気生理学実験を行うことはできなかったが、運動制御に関連して以下のような研究結果を得た。 1. IORと呼ばれる抑制性の効果を持つ視覚注意が一次視覚野損傷によって消失することが明らかになった。IORの効果は主にサッケードの反応時間に影響を及ぼすものであり、この結果はサッケードの生成において皮質系の視覚情報が重要であることを示すものである。 2. 健常動物において上丘の神経活動が運動パラメータそれ自体と同等あるいはそれ以上に課題依存性の報酬予測に関連した変化を示すことが明らかになった。これはサッケード眼球運動の制御に重要な役割を果たしている上丘が皮質野から受ける高次の情報をも処理していることを示しており、一次視覚野損傷下での上丘の昨日に変化があることを示唆するものである。 これらの結果からサッケード眼球運動の制御において皮質野の影響が大きいことが考えられ、前年度からの行動学的データと合わせて、皮質野を含めたサッケードダイナミクス制御機構の新規モデルの基礎を築くことができたと考える。上丘の電気生理学的実験によってより現実的なモデルを創出することを今後の課題としたい。
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