本年度はまず、胎児期から新生児期のマウスの脊髄運動ニューロンが中枢及び末梢で形成する興奮性シナプスのグルタミン酸受容体およびアセチルコリン受容体の働きについて電気生理学的手法を用いて調べた。マウスにおいてはこのシナプスは新生児期にすでに機能しており、そのシナプス電流の大きさのうちの60-70%をアセチルコリン(ニコチン)受容体、30-40%をグルタミン酸受容体が担っている(Nishimaru et al.2005)。このシナプス結合の発現時期や機能分化の過程を調べる目的で、本年度は抑制性ニューロンが蛍光色素蛋白質(EGFP)を発現するGAD67-EGFPマウスの胎児(胎生16-18日)・新生児(生後0-4日)を用いて脊髄摘出標本を作製し、腰髄のRenshaw細胞を可視下に同定してシナプス活動を記録した。その結果、胎生後期から運動ニューロンからのシナプス入力はニコチン受容体、グルタミン酸受容体の両方を介していることがわかった。また、同じ時期のマウスで腰髄後根脊髄反射の神経経路が活性化されたとき、Renshaw細胞は興奮性と抑制性の両方のシナプス入力を受けることを見いだした。これらのシナプス入力はニコチン受容体遮断薬の影響をほとんど受けなかったことから、感覚入力をうけた運動ニューロンからの入力ではなく、脊髄反射経路にある他の脊髄介在ニューロン由来であると考えられた。これらのシナプス応答の大きさはセロトニン(5-HT)によって修飾されることを見いだした。これらの結果は平成19年度9月に開催される日本神経科学学会で発表する予定である。また胎児期(胎生17-18日)での後肢の筋から白金-イリジウム電極を用いて運動ニューロンの末梢軸索(筋神経)を電気刺激したときの応答を記録した。応答の大部分は予想通り、ニコチン受容体を遮断することで減弱したが、それ以外の受容体の関与の詳細を来年度さらに調べていく方針である。
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