本研究の最終目的は、心筋ギャップジャンクション数理モデルを完成させ、心臓収縮機能へのギャップジャンクションカルシウム依存性の寄与を予測することにある。ただし心臓収縮機能のモデル解析にはギャップジャンクションモデルだけでなく、精緻化された心筋細胞モデルも必要である。特に病態時心筋細胞では、利用可能な自由エネルギーが低下することが実験的に示唆されており、病態解析に自由エネルギーの考慮は欠かせない。そこで本年度は自由エネルギー駆動型トランスポータのひとつであり、細胞内Ca^<2+>制御に重要な役割を果たすNa^+/K^+ポンプのエネルギー依存性を数理モデル化した。モデルは細胞内Na^+、細胞外K^+、細胞内ATP、ADP、Pi、電位依存性といった主要な電気生理実験結果を満足しうるか確認し、妥当性を検証した。このモデルを使って、自由エネルギー低下時の細胞内イオン恒常性、エネルギー恒常性について解析した。ミトコンドリアのATP産生速度を抑制し、自由エネルギー低下を人口的に誘発したところ、細胞内Ca^<2+>の上昇と、それに伴う収縮の亢進が見られた。つまり、自由エネルギー低下に伴うNa^+/K^+ポンプ低下が、細胞内Na+濃度を増加させ、Na^+/Ca^<2+>交換体を抑制させた。また収縮亢進はATP消費を増加させるため、エネルギー低下にもかかわらずさらにエネルギー需要が増えるという矛盾した状態を招くことがわかった。モデル解析を通じて病態時収縮機能低下のメカニズム解明が期待される。
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