複雑化した社会や不安な情勢を反映しストレス負荷は増大し、誰もがストレスを原因とする精神病を患う危険にさらされている。脳内において負荷されたストレスに対し情報処理が行われるが、その分子基盤に関する解明は進んでいない。その原因の一つには適切なモデルマウスがいないことが挙げられる。 研究代表者等のこれまでの研究により、アダプタータンパク質XllLの遺伝子欠損変異マウスが、明らかな活動量の低下、不安の亢進、記憶学習能力の低下、精神疾患様行動を示さないにもかかわらず、比較的不安のレベルが低い環境下において葛藤状態を解消するための行動が低下していること、更には競争環境下において社会的に劣位になることをみいだした。本年度は、その分子機構を明らかにするために研究を進めた。前年度に観察された変異マウスでの脳内モノアミン量の異常に関して、さらに詳細な領域毎に比較した。また、受容体、輸送体などのモノアミン量を制御しうる分子群の量を定量的PCRにより解析したが、変異マウスと野生型マウスの間で変化している分子はなかった。量的な変化は観察されなかったが、モノアミン量の変化と一致する受容体の機能異常が変異マウスにおいて観察された。また、変異マウスとテトラサイクリンシステムを使用したマウスを用いてXllLを時間、場所依存的に発現させることにより、変異マウスでの行動異常が部分的に回復した。これらの成果は脳内におけるストレスなどの外界からの刺激に対する情報処理機構においてXllLがモノアミンシステムを介して重要な役割を果たすことを示唆する。また、Xl1L遺伝子欠損変異マウスが、それらの機構を解析する為の有効なモデルマウスになると考えられる。
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