研究概要 |
1.せん断流場中での赤血球変形のシミュレーション 溶血発生のせん断応力閾値が過去に報告されている.また,赤血球引張り試験の結果から赤血球膜の弾性係数が報告されている.これらのデータを参考にし,赤血球の変形を計算した.まず数値流体解析により標準的な循環補助の条件(流量5L/min,差圧100mmHg)で連続流血液ポンプを駆動したときのポンプ内部の血流を計算した.計算された血流をもとにポンプを通過する赤血球の軌跡を求めたところインペラ周辺を繰り返し通過することにより,赤血球には繰り返し高いせん断応力が印加されることが確認された.代表的な経路を通過する赤血球に作用するせん断応力の履歴をもとに,1軸方向の応力印加として,ディスク形状を仮定した赤血球の変形を計算した. 印加せん断応力値およびその印加時間と赤血球損傷度との関係を表した実験式について赤血球の変形と関連付けて考察を行った.式変形によりこの実験式が赤血球変形にともなう歪みと溶血量との関係を表していると解釈し,このステップ状せん断印加に対する変形(直径変化)応答を3要素モデルの応答で近似したところ,その遅延時間は0.199sとなり,過去の報告の値(200ms)とよく一致した.また,この3要素モデルに基づき赤血球の変形を計算したところ,インペラ部通過時の極短時間の高せん断印加によってその直径が10%程度変化するという結果を得た.今後は赤血球の3次元モデルを作成し,実際のポンプ中と同様の多軸応力印加による変形を計算する予定である. 2.せん断流場中での赤血球変形の観察 赤血球変形と溶血の関係について調べるため,コーンプレート型のせん断印加装置を設計,製作した.この観察装置系は倒立顕微鏡の対物レンズ上にせん断印加部の底面を配置し,せん断印加中の赤血球を観察できる構造とした.
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