研究概要 |
再生医療において、細胞の三次元組織化に関する研究は未だ基礎研究レベルを脱却しきれていないにも関わらず、三次元組織化に必要とされる基礎的な知見すら得られていない状況であり早急の解決が求められている。研究代表者の松崎は、細胞が増殖する三次元足場材料の分解性を自在に制御することで、三次元組織体の独創的構築法を考案した。ジスルフィド結合で架橋されたハイドロゲルを用いて三次元培養後、還元剤によりゲルのみを分解することで、細胞と細胞外マトリックスのみから構成される三次元組織体が得られると期待される。得られる三次元組織体は合成化合物を含まないため安全性にも優れており、実用化の可能性が極めて高い。 本年度は、ポリ(γ-グルタミン酸)(γ-PGA)をシスタミンで架橋したジスルフィド架橋γ-PGAゲル(γ-PGA-SSゲル)を調製し、種々の還元剤による分解特性および三次元組織化を検討した。仕込みのγ-PGAやシスタミンの濃度を制御することで、様々な膨潤度のゲルを調製できた。また、還元剤としてグルタチオンやシステインを用いると、還元剤の種類や濃度に応じて30分〜1週間程度まで分解時間を制御可能であることを見出した。凍結乾燥した直径1cm厚さ2mmのγ-PGA-SSゲルにマウスL929細胞を播種し、10日間培養を行った後にシステインを含む培地に浸漬すると、テンプレートであるγ-PGA-SSゲルのみの分解が確認され、γ-PGA-SSゲルと同じサイズの細胞組織体が得られた。この組織体は、細胞と細胞が産出した細胞外マトリックス成分のみで構成されていることが確認された。合成化合物を含まないセンチメートルオーダーの組織体はこれまで例が無く、本研究により得られた世界で初めての成果である。 本年度の研究成果は学術論文として掲載が確定しており(Biomaterials, in press)、また、2007年2月26日の日刊工業新聞に本研究内容が掲載されたことからも本研究の重要性が伺える。本年度は当初の予定をはるかに超えて研究が進行した。
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