近年、生体必須元素の一つであるマグネシウムに注目し、その合金を医療用生体吸収性金属材料として用いる試みが行われている。しかしながら、マグネシウムおよびその合金については、生体適合性に関する基礎的データが得られておらず、また生体内における分解・吸収速度評価についての評価法も確立されていない。 そこで、本研究では、マグネシウムおよびその合金を生体吸収性医用材料として適用するために必要な基礎データ収集を行う。生体内における分解・吸収速度評価法および生物学的安全性評価法の一つである細胞適合性試験法を確立し、マグネシウムおよびその合金の医療用生体吸収性金属材料への適用を進める礎とする。 本年度は、生体内における分解・吸収速度評価法として、疑似血漿を用い、37℃、5%CO_2インキュベータ内で浸漬試験を行い、溶出マグネシウムイオン量を定量することにより分解速度を評価する手法を考案した。純マグネシウムについて、疑似血漿溶液の代わりに種々の疑似体液(生理食塩水、生理的塩類溶液、細胞培養液)を用いて浸漬試験を行い、マグネシウムの生体内分解性に及ぼす体液成分(無機イオン、アミノ酸等)の影響を検討した。その結果、1)マグネシウムの生体内分解には疑似体液のpH変化が大きく影響すること、2)疑似体液中のリン酸塩の存在により分解速度が減少すること、3)疑似体液中のアミノ酸の存在により分解速度が増加すること、4)疑似体液中のタンパク質の存在により分解速度が減少することが明らかになった。これらのことから、マグネシウムおよびその合金の生体内分解速度を評価するためには、埋入部位の環境・体液に近いなるべく近い環境を再現することが重要であることが示された。
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