近年、生体必須元素の一つであるマグネシウムに注目し、その合金を医療用生体吸収性金属材料として用いる試みが行われている。しかしながら、マグネシウムおよびその合金については、生体適合性に関する基礎的データが得られておらず、また生体内における分解・吸収速度評価についての評価法も確立されていない。そこで、本研究では、マグネシウムおよびその合金を医療用生体吸収性金属材料として適用するために必要な基礎データ収集を行う。生体内における分解・吸収速度評価法および生物学的安全性評価法の一つである細胞適合性試験法を確立し、マグネシウムおよびその合金の医療用生体吸収性金属材料への適用を進める礎とする。 本年度は、細胞適合性試験法として、ヒト成人の1/100スケールで細胞培養を行う手法を考案した。純マグネシウムおよびAZ31、AZ61、AZ80合金上で、マウス線維芽細胞L929を1、4、7日培養後、WST-1法により生細胞数を測定した。また、培養に用いた10%血清添加E-MEM中に溶出したマグネシウムイオンを定量した。その結果、1)細胞はAZ31および純マグネシウム上では順調に増殖するが、AZ61、AZ80上ではほとんど増殖しないこと、2)マグネシウム溶出量は純マグネシウム>AZ31>AZ61>AZ80の順に低下すること、が明らかになった。これまでに、Alを含むマグネシウム合金系では、合金中のAl添加濃度が高くなるほど腐食後の表面皮膜中のAl含有率が高くなること、また、純Al表面の細胞接着性・細胞増殖性が低いことが明らかにされている。これらのことから、Alを含むマグネシウム合金系では、合金中のAl添加濃度が高いほど、Mgの溶出量は低下する一方、皮膜中に濃縮したAlの影響で細胞増殖が抑制される可能性が示唆された。
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