本研究課題では、ブロックポリマーが自発的に形成するナノ集合体である「高分子ミセル」に着目し、表面にアルデヒド基を有する高分子ミセル、及び側鎖にアミノ基を有する高分子がシッフ塩基を介してゲル化する現象を利用した、新しい組織接着性ハイドロゲルの開発を検討している。本年度は、前年度から引き続き、高分子ミセルやポリアミン成分の分子設計を最適化し、ゲルの最適設計条件の探索を行った。また、得られた最適な組成のゲルを用いて、動物実験を行った。各成分を含む溶液をマウスの腹膜や腸管表面に同時に滴下したところ、迅速に形成したゲルが組織に接着した。これは、高分子ミセル外殻末端のアルデヒド基が生体組織表面に存在するアミノ基と反応して、組織接着性を示したと考えられる。そこで、本新規ハイドロゲルの止血材や薬物放出マトリックスとしての応用を検討した。麻酔下においてマウスの胸腹部を切開し、針で刺して出血させた肝臓に高分子ミセル溶液及び高分子溶液を滴下したところ、コントロール(非適用)系と比較して、止血材を適用した系の方が有意に止血効果が得られた(p<0.05)。さらに、市販の止血材と比較したところ、同等の高い止血性能を示すことが明らかとなった。次に、このハイドロゲルからの薬物放出挙動を検討した。その結果。高分子ミセルを組み込まないゲルや単独の高分子ミセルと比較して、薬物を内包した高分子ミセルを用いて調製したゲルからの薬物放出速度は低かった。これは、高分子ミセルの構造を制御することによって。ゲルからの薬物放出特性を制御できることを示唆している。以上の結果より、本新規組織接着性ハイドロゲルは、止血材や薬物放出マトリックスに利用可能な新しいバイオマテリアルであると考えられる。
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