研究概要 |
Pgpなどの膜タンパク質を介したがんの多剤耐性を克服するため,Pgp活性阻害を担う高分子アンカーとプロトンスポンジ効果を発現する部位を組み込んだ高分子の合成を行った。作成した高分子は,プロトンスポンジ効果を誘起するN, N-(dimethylamino)ethyl methacrylateを基本骨格とし,抗がん剤であるアドリアマイシン(ADM)を結合させるため,メタクリル酸を10mol%導入したものをラジカル重合により合成した。平均分子量は57000で多分散度は1.6であった。この高分子にADMを3.6mol%,0.8mol%で導入した。得られた高分子を白血病由来細胞K562とそのADM耐性株K562/ADMを用いて,その多剤耐性克服能の評価を行った。結果として,細胞へ高分子を添加しても,十分にK562/ADMの多剤耐性を低下させることが出来なかった。これは高分子へ結合したADMが高分子主鎖に近すぎるため,主鎖のかさばりがADMのPgpへの認識を阻害してしまい,結果としてPgpの活性を十分に落とすことが出来なかった可能性が示唆された。 そこで,高分子に結合したADMが十分な流動性を持ち,よりPgpへ認識されやすくなるような高分子を再度設計した。具体的にはメタクリル酸にスペーサーとしてポリエチレングリコールの四量体を付加し,その末端にADMを導入した。ADMの導入量は2.4mol%,分子量22000,多分散度1.3であった。この高分子も,K562を用いて多剤耐性克服能の調査を行ったが,前述の高分子同様,十分な効果を示すには至らなかった。 この原因を精査するため,蛍光顕微鏡を用いた高分子の細胞内動態の調査を行った。接着性細胞KBとその薬剤耐性株VJ300を用いて高分子の細胞内動態を観察したところ,1時間程度で高分子は細胞内に取り込まれていることが確認された。また,ADM単剤の場合は,数十分で核の内部への集積が確認されるが,この高分子は核内へ全く移行していなかった。今後,高分子がエンドソームから放出され,細胞室内に集積している事を確認し,結果を踏まえて高分子の再設計と耐性克服評価を行う
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