研究概要 |
近赤外光は血管内のヘモグロビンに対して特異的に高い吸収性を有している.生体に近赤外光を照射して,生体を透過または反射した光を撮影すると,容易に血管を可視化できる.本研究では,手指に近赤外光を照射しその透過光より血管像を取得し,上腕を圧迫させた場合における血管像に及ぼす影響を計測した.被験者(成人男性10名,平均年齢23歳)に,スリットを設けた板上に右手環指の近位指節間関節の掌側を置くように指示し,背側から波長850nmの近赤外光を照射し,スリットの下部に設けた赤外光CCDカメラで血管像を得た.カフ圧迫力は20,40,100,150mmHgと中間の血圧値の5種類とした.圧迫前+圧迫中+圧迫後を各1分間の計3分間を5秒間隔で撮影した.カフ圧迫後の血管像は,圧迫前のそれと比較して黒色に変化した.カフ圧迫により血管内に血液が滞留(うっ血)したことにより,近赤外光がヘモグロビンにて反射される確率が増加したことに起因すると思われる.画像全領域の平均グレースケール値(G値)は圧迫直後から徐々に減少し,圧迫解除後,激増して圧迫前の値へ戻った.この結果より,圧迫開始時と解除時のG値の差(変化量)を算出した.圧迫力が被験者の収縮期血圧よりも低値の場合,圧迫力の増加に伴い変化量は有意に増加した.しかし,圧迫力が収縮期血圧より高値の場合,変化量は有意に急減した.静脈は皮膚直下にあるため、30mmHg以上の圧迫力で狭窄し始め,50mmHg以上で閉塞する.そのため,50mmHg以下では圧迫力の上昇に伴って静脈内血液量が増加する.一方,収縮期血圧以下の圧迫力では,動脈が閉塞していないため,平均の血圧値と100mmHgの圧迫力における変化量に有意差が見られなかった.さらに圧迫力が収縮期血圧よりも高値の場合,動脈が閉塞し,血流が停止する.その結果,静脈内血液量の変化が生じず,変化量が低値であった.
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