本申請では、医用重粒子線CTにおける再構成画像の空間分解能がどこまで到達可能であるかについて、実験的手法により総合評価を行うことを目的とした。なかでも、空間分解能低下の一番の要因として考えられている多重クーロン散乱によるボケの影響を、我々が提案中である重粒子線版FDR法を適用することにより補正可能であるかどうかについて、実験的に示すことを到達目標とした。平成19年度においては、平成18年度に引き続き、昨年度製作した大サイズ空間分解能評価ファントムを用いたCT照射実験を、放射線医学総合研究所に設置された重粒子線加速器HIMACを用いて遂行した。ここで、これまで我々は、我が国が世界に先駆けて推進中である「炭素線」を用いたがん治療の治療計画に注目し、「炭素線」によるCTシステムの評価を遂行してきた。一方で、本研究では、「被写体内において照射粒子が多重クーロン散乱により進行方向が曲げられることによるボケの現象を評価・補正」することを目的としていることから、その効果がより顕著に現れる「ヘリウム線」を用いたCT照射実験を今年度初めて遂行した。その結果、炭素線によるCT画像に比べてヘリウム線によるCT画像の方が空間分解能が顕著に低下していることが示された。すなわち、我々のシステムにより撮影されたデータにおけるボケの効果は、多重クーロン散乱が支配的であるという結果を実験的に得ることに成功した。また、これら両者の実測データに対して、昨年度提案した「ウィナーフィルターを考慮にいれた多重クーロン散乱補正付きFDR補正」の適用を現在行なっている最中であり、本手法により空間分解能低下の補正が可能な予備的な結果が出たところである。以上より、我々が考察中である重粒子線CTシステムでは、最終的に、X線CTに近い約1mmの空間分解能を達成することが可能であることが本研究により実験的に示された(IEEE Trans. Med. Imag.に論文投稿準備中)。
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