患者生理モデルを用いた理論解析は治療行為の評価、患者の予後予測、治療方策の設定、ひいては診断法や治療法そのものの発展に重要であり、その臨床的、理論的意義が極めて大きいと考えられる。本研究は集中治療室における重症患者の呼吸系、循環系、代謝系、酸塩基系、神経系の複数生理機能の同時集中管理を念頭に、各基本生理状態と臨床管理処置との間の定量関係を中心に、患者の病態生理機能の統合モデルを構築すると同時に、臨床応用のための生理機能制御システムの確立を目的としている。特に、脳低温療法の患者を研究対象とし、複数の病的生理機能の新しい集中管理法の発見を試みる。それにより、本研究は脳低温療法の臨床に有益だけではなく、集中治療室における他の重症患者の全身管理及びそのための医療チーム編成にも有意義である。また理論的にも「システム医療」の実現につながると期待される。.2008年度では、これまでに構築した呼吸系、温熱系と循環系の統合モデルを用いて、脳低温療法に相応しい呼吸管理法を提案し、種々理論検討を可能にした。特に、これまでの臨床で独立的に調整されている水冷ブランケットと人工呼吸器の統合に有益な知見を得ることができた。また、構築した生理機能の統合モデルを拡張し、グルコース・インスリン・グルカゴンのダイナミクスを表現可能にした。それにより、本研究者により新たに提案した脳糖ホメオスターシスの概念を確立でき、特に糖尿病におけるストレスと脳の役割を定量的に検討可能となった。また、2008年度では、構築した生理機能統合モデルの正当性を脳低温療法の臨床患者データを用いて検証可能にした。さらに、脳低温療法の臨床実際を支援するために、エアポンプ、シリンジポンプと水冷ブランケットなどの生理機能管理装置を統合させ、呼吸、循環、代謝、薬理の集中管理を可能にする実験装置の構築にも着手した。
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