研究概要 |
日常的に点字を用いている視覚障害者は素早く点字解読を行う.このように視覚障害者の手指感覚識別能力は健常者に比べて優れている.この能力差は手指感覚識別時の手指循環調節能の違いに強く反映するかもしれない.そこで本研究では,手指感覚識別時の手指皮膚血流量,心拍数,動脈血圧を同時測定する計測システムを開発し,視覚障害者群(男性3名,女性3名,平均年齢33±10歳)と点字解読経験のない健常者(男性4名,女性5名,平均年齢30±8歳)の手指感覚識別時にみられる手指循環動態の動的変動を調査した.手指感覚課題としては点字解読課題を用いた. その結果,心拍数および動脈血圧は両群ともに僅かな変化しか観察されなかった.一方で,手指皮膚血流量は点字解読中に減少した(視覚障害者群-14.2±4.5%,健常者群-24.6±5.6%).また点字解読中の血圧変動が少なかったことから,血管コンダクタンスの変化は血流量の変化を反映していた.血流応答のピーク値までの到達時間は,視覚障害者群6.1±0.1秒に対して健常者群11.9±0.9秒であり,視覚障害者群の方が有意に速かった(P<0.05). 本研究成績より,点字解読中の心拍数および動脈血圧の変動は少なかったことから,本研究で用いられた点字解読課題による心理的ストレスの影響は小さかったと示唆された.一方で,点字解読中の手指血流量は著しく減少した.さらに点字解読中の血管コンダクタンスも血流量と同様に減少していることから,点字解読時に交感神経活動を介する神経性血管収縮が起こり,手指皮膚血流量が減少したと考えられた.また,これらの手指循環反応において,視覚障害者の反応は健常者に比べて速く起こることから,点字の日常使用による高度の学習効果によって,見込み的な中枢性手指循環制御が出現したものと推察された.
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