本年度は、慢性呼吸器疾患患者の日常生活における気道局所免疫能を検討する基礎的データの収集および呼吸リハビリテーションが上気道局所免疫能に及ぼす影響を検証する目的で以下のとおり実施した。 1)呼吸器疾患を有していない通所介護利用高齢者(79.3±8.4歳)と入院加療中の高齢者(81.5±5.8歳)の安静時唾液中分泌型免疫グロブリンA(SIgA)の8週間の変動を検討した結果、通所介護群と入院群で安静時唾液中SIgAの個人内変動係数(CV)は、それぞれ38.0±11.0%、42.0±11.8%であり差を認めなかった。さらに慢性呼吸器疾患患者の個人内CVが39.0±1.2%と同程度であったことから、SIgA値の個人変動には疾患の影響が少ないことが明らかとなった。 2)呼吸不全の急性増悪により入院した慢性呼吸器疾患患者(75.5±5.3歳)を対象に、リハビリテーション(リハ)処方日から退院までの期間唾液採取を行った。リハ実施日にはリハ前後に、非実施日には、実施日のリハ前と同一時刻に唾液採取を行った。酵素標識免疫測定法を角いて、SIgA濃度を解析し、SIgA分泌速度とその変動係数(CV)を算出した。その結果、唾液中SIgA分泌速度は増加・減少の両方の変化を認め、日差変動に一定の傾向を認めなかった。また、唾液中SIgA分泌速度の個人内CVは39.0±1.2%で、個人間CVは66.5%であったことから、急性増悪後の呼吸リハ実施期間中に易感染状態となる日が存在することが明らかとなった。さらに呼吸リハにより唾液中SIgAは変動したが、呼吸リハ前後の変動と対応する日差変動が有意な正の相関を認めたことから、呼吸リハ前後の変動の背景には、運動療法といった影響の他、個人の生理的変動の要因も含まれる可能性が示唆され、SIgAモニタリングの有用性を明らかにするためには、個人変動を加味した検証が必要である。
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