研究概要 |
本研究では、ヒト長腓骨筋において支配神経の分岐様式から同定される神経筋コンパートメントを確認した上で、筋内コンパートメントにおける形状特性を解剖学的に明らかにすることを目的とした。筋標本は解剖実習用屍体の下腿を研究材料として使用した。形状因子に基づく筋内コンパートメントの同定は筋の浅層および深層から分析を行い、筋線維および腱組織の幾何学的な配置関係を基準に定めた。また、長腓骨筋を支配する浅腓骨神経から分岐する筋内の神経枝パターンを観察した。その結果、長腓骨筋は4つの明確なコンパートメント(区画)、anterior superficial(AS), posterior superficial(PS), anterior deep(AD) and posterior deep(PD)portionsを有することが認められた。筋内の浅部および深部区画は遠位の停止腱から続く腱膜によって分離された。さらに、これらの両筋区画の各々が筋線維の走行により前部と後部区画に区分された。AS、 PSおよびADの筋区画間では、腱と筋線維とのなす角度である羽状角に有意な差は認められないが、PD区画の羽状角は他の3つの筋区画に比して有意に大きい値を示した。また、これらの形状に基づいて分類した筋区画は神経支配様式により定められた筋区画と一致した。一貫して4つの筋枝が存在し、各筋枝が4筋区画の各々に進入することが確認された。今回試みた長腓骨筋のコンパートメント化は、筋の多様な機能を解明する生理学的研究において解剖学的基礎を提供するとともに、単一筋内に存在する機能分化に関わる可能性を示唆する。また、本研究で明らかとなった筋内コンパートメントの形態学的特性は、骨格筋の形態・機能を生体で観察可能な超音波法によるリハビリテーション評価法を構築する上での基盤形成に寄与する。
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