研究概要 |
本研究は,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて測定した大脳および小脳の活動の時空間パターンを詳細に解析し,大脳および小脳における情報処理様式を明らかにすることを目的としている.実験1では,被験者にfMRI装置の中で,右手の人差し指によるタッピングを行ってもらい,脳活動を示すBOLD信号を全脳より取得した.分析の結果,タッピング回数や一連の運動の持続時間を変化させることで,課題の違いに応じてBOLD信号の時系列が変化することを確認した.ただし,1秒以内の持続時間をもつ課題では,タッピング回数が異なってもBOLD信号の違いが見出されなかった.実験2では,等しい回数および持続時間(5秒間)をもつ複数のリズムパターンを,音刺激とともに,もしくは音刺激なしで行ってもらった.また,音刺激の提示のみによる脳活動も測定した.データ解析より,各リズムパターンに応じてBOLD信号の時系列の特徴が変化する脳部位と,変化しない脳部位を,voxel単位(空間解像度3mm×3mm×5.8mm)で分離して抽出することに成功した.具体的には,一次運動野および一次聴覚野などの,情報の入出力に近い脳部位は前者の特徴をもつvoxelが多く含まれるが,運動前野,補足運動野,小脳では前者と後者が入り交じるという結果が得られた.前者の特徴を抽出できたことで,「運動の時間パターンの違いは,BOLD信号の時間パターンの違いに反映される」という本研究における第一の仮説は支持された.さらに,後者の特徴を抽出できたことは,BOLD信号の時系列の形に,各脳部位の持つ機能に基づいた神経活動の様子が反映されることを示していると考えられた.このような分析を応用すると,神経活動のパターンをBOLD信号のパターンから推測し,各部位の詳細な機能を論じることが可能であり,新しい解析方法として期待される.
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