本年度は、三次元動作解析を用いて、舞踊熟練者の感情表現動作における空間的広がりを表すダイナミズムの評価を試みた。 舞踊の熟練者には全身を使って3種類の感情(喜び・悲しみ・怒り)をそれぞれ5秒間で表現するよう指示し、三次元動作解析を行なうため、DLT法に基づき2台の同期したビデオカメラ(60fps)によって撮影した。得られた画像データをもとに、表現の開始から終了までの身体動作についてビデオ動作解析プログラム(Frame-DIASII、DKH社)を使用してディジタイジングを行い、身体各部の三次元座標値を算出した。 ダイナミズムの指標は、舞踊熟練者の身体を取り囲む三次元空間において、撮影された映像の1フレーム(1/60秒)ごとに熟練者の身体部位座標値におけるX・Y・Z座標の最大・最小値を求め、これらの座標値から成る立方体の体積を、表現動作が生み出す空間的広がりの1単位「D」(空間ダイナミズム)と示すこととした。 各感情の5秒間の表現におけるDの最大値を求めたところ、喜びと怒りの表現においてその値が大きい傾向にあることが示され、それぞれの表現中に身体の空間的広がりを効果的に用いていることが明らかになった。またDの微分で示される0の変化量の最大値と最小値を求めたところ、喜びの表現では最小値よりも最大値の方が大きく、悲しみと怒りの表現では最大値より最小値の方がその値が大きいことが明らかになった。このことは、喜びの表現では、ある箇所における表現動作の急激な空間的変化が身体を広げる際に生じるのに対し、悲しみと怒りの表現では身体を縮める際に生じるということを示している。これらの結果より、舞踊熟練者の感情表現動作における空間的広がりに関するダイナミズムは、感情の種類によってその構造は異なる性質を持つ可能性が示唆され、今後分析を継続する上での一つの仮説が導かれた。
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