【研究目的】 本研究は冒険教育プログラム参加者の心理的プロセスモデルを作成するために、影響を多く受けた対象者の中から事例検討をおこなった。質的アプローチの中でも手続きが体系化されているグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い、冒険教育プログラムで参加者はどのような体験をするのか?」というリサーチ・クエスチョンのもと、体験プロセスモデルの生成を通して参加者の心理的変化を明らかにすることを目的とした。 【研究方法】 研究対象は2週間の冒険教育プログラムに参加した事例T(参加時15歳時)とした。データは内省記録と観察記録の2つで、内省記録は参加者による2回の感想文、観察記録は筆者による参与観察である。 【研究結果】 カテゴリーを提示するとともに体験プロセスモデルを生成する。<活動前>の体験プロセスにはプログラム達成や自己やグループの向上を目指す【意欲】、【期待】、日常や過去との【比較】が生成された。プログラムを通して<活動後>には「つらく、苦しく、できそうもないことを成し遂げた時、それは大きな自信になる」などの記述から【自信の獲得】、自己や他者への【気づき】が生成された。このカテゴリーを反映する記述を<活動中>に辿ると、「一番この自信につながったことは、先頭を行くということだった」【グループへの関わり方】、「先頭というのは一番大変な役だと思う、うしろを見てチームのペースを考え、地図を見て行き方を考え、まわりを見てどうすれば安全か考えた」と、その関わり方についての分析がみられた。このような体験とそれに伴う思考から「この大変な先頭がとても楽しく、うれしく、また良い感覚がした」【充実体験】を起こしていることが伺える。しかし、長期間の冒険プログラムにおいて成功体験や充実体験を得るプロセスには、【疲労・困難】あるいは個人やグループに対する【不安・葛藤】が生じる。結果として【達成できなかった体験】も少なからずあったが、その体験が【悔しさ】を誘発し、達成するために「後ろの人を気にしながら行こうと思う」といった【グループへの関わり方】が変化していくプロセスがみられた。
|