研究概要 |
多くのスポーツにおける学習の重要な目的は,成功を導く技能に加え,失敗を抑制する技能を修得することにある.運動学習の研究分野では,スポーツの運動系でだけではなく判断などの認知系の技能についての熟練課程を検討してきた.しかしながら,失敗の抑制のための諸技能についての研究は数少ない. 本研究の総合的な目的は,高速で展開するスポーツの失敗事例を積極的・直接的に分析して,失敗の原因や回避法そして回避訓練法を運動と認知技能の観点から検討し提案することにある.これまでの研究成果では,失敗原因について個人差や熟練差を検討し,個々人に陥りやすい失敗原因があるが,熟練差が観察されなかったことを報告した.そこで本年度は,剣道競技を対象として失敗回避法の熟練差を検討した. 熟練と準熟練の2群の大学剣道選手を対象として,同群内で3分間の試合を5回行わせた.参加者は各試合直後に自身の映像を観察しながら実験者による半構造化インタビューを受け,各動作の頻度・方法・タイミング・失敗回避の度合などを詳細に回答した. 群間の結果の比較では,失敗回避(防御)動作の頻度やタイミングに大きな差異は認められなかった.しかし,方法において,熟練群は竹刀と身体の複合的な部位を用いて,相手の竹刀の軌道を妨害することに加えて自己の打突部位を移動するなど複数の方法を採用して失敗を回避することが多かった.一方,準熟練群は単一の部位や方法によって失敗を回避することが多かった.熟練群が動作として採用する失敗回避法は,高速で展開する上に,生起事象の過程と結果の関係が不確実なスポーツにおいて,失敗回避の可能性を高めるために有効な方法であると考えられる. 今後は,対象とする参加者の熟練度を拡張して理解を深めると同時に,その知見を活かして有効な失敗回避訓練法を立案したい.
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