研究概要 |
子どもの体力低下問題は,生活習慣の乱れ,社会性の低下,体験の不足,または青少年の意欲低下等の関連の中で現在盛んに議論されている. 中教審の「健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会」(平成17年7月)の議論に見られるように,幼少年期においては「巧みに体を動かす身体能力」を重視する方向が認められる.こうした運動能力は一般的に「調整力」と呼ばれ,神経系の成熟を基盤として,基本的運動技能の発達とともに幼児期および児童期前期にめざましい発達をとげる.調整力は心理的要素も含む動きを規定する体力要素と定義され,その因子構造や発達差,および運動効果の検証などについて検討が積み重ねられてきた.調整力発達の敏感期に適切な身体活動を体験することは,生涯にわたる心身における自律性の確立にむけて重要な役割を果たす.そこで,本稿においては調整力研究の動向を概観しながら,心身の調整力に関わる概念モデル構築を行うとともに,今後求められる研究の方向性について検討した結果,下記4点の知見が得られた. 1)調整力は,心理的要素を含む,動きを規定する体力要素と定義される. 2)調整力の因子構造は,全身調整力,知的能力の発達,感覚との協応を含む調整力,知的能力の発達,下肢の調整力,および手の調整力の5因子見出されている. 3)体育科学センターによる「調整力テスト」では反復横とび,とび越しくぐり,ジグザグ走が提案されている. 4)運動プログラム効果において,4〜6歳が調整力発達の敏感期であること,日々の活動においては走運動,ボール運動,遊びに即した体操なども効果的であり,毎日の継続的な身体活動が調整力発達の基盤である. 上述の研究動向を踏まえ,今日の幼少年期の子どもの心身の発達状況に対応すべく,子どものこころと体の「調整力」を育む運動プログラムの開発とその効果の検証が望まれる.
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