平成19年度には、まず平成18年度に行ったインタビュー調査の成果を、1件の学会発表と2件の雑誌論文にまとめた。 さらに平成19年度中には、スポーツ環境における2件のセクシュアル・ハラスメント事件に関するインタビュー調査を新たに実施した。そのうちの1件の対象は、ある事件の加害者として有罪判決を受けた人物である。この種の事件の加害者は概して調査の対象となることは少なく、このインタビュー内容は、本研究のテーマの視点である「男性の立場」からスポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメントを検討するにあたって重要なデータになると思われる。 もう1件の対象はセクシュアル・ハラスメントの被害者や加害者といった当事者ではなく、被害者の裁判活動を支えた支援者たちであった。セクシュアル・ハラスメント事件を、加害者と被害者間に起こったセクシュアル・ハラスメント行為だけとして捉えるのではなく、被害者が加害者の行為に対して異議申し立てをし、それが周りの人々に伝わり被害者を(場合によっては加害者を)支援する活動として展開して、ある一定の結末をむかえるまでの多様な人々の相互行為として捉える場合に、これら支援者たちの声は重要な意味を持ってくると思われる。またセクシュアル・ハラスメント事件を、被害者の異議申し立てに始まり、多様な人々の相互行為として社会的に構築されたものとして捉える立場は、スポーツ社会学分野におけるこれまでのセクシュアル・ハラスメント研究にはなかった。したがって、セクシュアル・ハラスメント事件の支援者たちの声を拾う作業は、スポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメントの研究活動に新しいアプローチをもたらすことが期待される。
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