平成20年度には研究テーマに関する事例調査の結果を1件の雑誌論文にまとめた。これは平成19年度に行ったインタビュー調査の成果をまとめたものであり、そこでは、スポーツ環境における一つのセクシュアル・ハラスメント事例について、被害者や加害者といった当事者だけではなく、被害者の裁判活動を支えた支援者たちも調査対象に含めた。そして、加害者の行為に対する被害者の異議申し立てと、それを取り巻く周りの人々による被害者の支援活動を通じて、スポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメント事件が構築されていく過程の理解を試みた。 さらに平成20年度中には、もう一件のセクシュアル・ハラスメント事件に関するインタビュー調査を、平成19年度に引き続き実施した。対象は、ある事件の加害者男性を初めとして、その事件の場面に居合わせた被害者2名、そして事件の関係者2名である。一つの事例に関して計5名の関係者から話を伺えるのは今回が初めてであり、これまでにはない多くの視点から一つの事例についての見解を得ることができた。この事例では男性指導者から男子生徒へとセクシュアル・ハラスメント行為が行われた。こうした事例の解釈においてはホモセクシュアルではなくホモソーシャルという概念が有効になると思われ、このホモソーシャルという概念を使うことによって、男性同性間のセクシュアル・ハラスメント行為の本質的な部分を解明できたと考えている。
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