今年度の研究計画にしたがって、2つの実験を実施し、以下のような結果を得た。 実験1では、高齢者の単純反応時間と選択反応時間、全身反応時間、一致タイミング能力について、大学生と比較することによってエイジングの影響を検討した。その結果、高齢者の単純反応時間と選択反応時間、全身反応時間に対して顕著な遅延が示された。同時に、一致タイミング能力に関しては、顕著に大きなタイミング・エラーが示された。これらの結果から、上記のような知覚-運動スキルに対してエイジングの影響は大きく、高齢者が知覚-運動活動を行う際はその能力の低下を十分に把握することが重要であることが示唆された。 しかし、高齢化によって低下したこれらの能力に対してストレッチング等の軽運動を定期的に実施することによる効果について検討した結果、週1回の頻度で4ヶ月間の軽運動実施によって、単純反応時間と選択反応時間、全身反応時間には有意な減少が示され、かつ一致タイミング・エラーに関しても有意に減少することが示された。これらの結果から、高齢化によって低下した上記の能力は軽運動を定期的に継続することによって改善可能であることが見出された。 実験2では高齢者の運動学習に対する「漸減要約フィードバック・スケジュール」の効果について検討した。先行研究における大学生の運動学習に対して、従来のフィードバック・スケジュールよりも高い学習効果を示した「漸減要約フィードバック」と従来の「即時的フィードバック」という2つを比較した結果、習得段階と保持段階において、両フィードバック・スケジュール間に有意な差は示されなかった。これらの結果から、高齢者の運動学習に対しては「漸減要約フィードバック」の有効性は示されず、高齢者と若年者とでは運動学習におけるKRの利用に違いがあることが明らかとなった。
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