研究概要 |
20年度は核DNA, ミトコンドリアDNAへの酸化ヌクレオチド取り込みを回避するMTH1(MutT homologue), およびDNAの直接酸化で生じる8-oxoGを切り出すOGG1(8-oxoG DNA glycosylase)のmRNA発現変化が慢性的な運動によってどのように修飾されるかを, 肝臓を対象に検討した. さらに, 塩基欠落部AP siteやDNA酸化ストレスマーカー8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG), 抗酸化酵素のsuperoxide dismutase(SOD)活性を併せて評価し, 抗酸化システムへの影響を総合的に検討した. 被験動物は8週齢Wistar系雄ラットで, 小動物用トレッドミルを用いて走行を行った. コントロール群(n=6), 低強度運動群(n=7), 中強度運動群(n=7)に分類し, 運動群は週5日間の頻度で6週間の運動を実施した. 中強度運動群は約65%最大酸素摂取量に相当する強度(20m/min)で60分間, 低強度運動群には強度と時間を中強度運動群の半分にした運動(10m/min, 30分間)を行わせた. 6週間の実験期間後, 安静状態(運動群は最終運動後48時間)での肝臓組織サンプルを採取した. OGG1, およびMTH1のmRNA発現レベルは有意な変動を示さなかった. しかし8-OHdG量は運動群でコントロール群と比べて, 低い傾向を示した. またSOD活性は運動群, 特に低強度運動群で有意に増大し, 安静時の肝臓APsite数は運動群で高値であり, 損傷塩基が効率よく除去されている可能性が認められた. これらのことから, 慢性的な運動負荷は肝臓DNA修復システムをアップレギュレートし, 主要なDNA修復酵素の発現亢進を伴わなくても, 抗酸化システム全体を賦活して生体保護的に作用するものと考えられる.
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