研究概要 |
運動能力は様々な要因によって決定され,体温や脳内神経伝達物質もその重要な要因の一つとして考えられている.本研究の目的は,運動生理学分野で注目されているテレメトリー(小型体温計の埋め込み)法とマイクロダイアリシス法をカップリングさせた系を用いて,運動時の中枢性疲労における体温調節中枢の役割を検討することであった. 平成18年度は,実験環境を整備し,基礎的な安静実験,薬理実験及び運動実験を行った.平成19年度は初年度に得られた結果を基に,薬理学的手法を用いて脳内の特定の神経伝達物質を増大させた際の運動能力,体温調節反応及び神経伝達物質の変動を主に測定した.得られた成果は,以下のとおりである. ・ド-パミン/ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(Bupropion)の投与により,暑熱環境下における持久的運動能力の向上を観察した.Bupropion群の脳温及び深部体温は,体温の限界レベルを超える程上昇した. ・安静時においてD_2レセプター促進薬(Quinpirole)を腹腔内投与したところ,脳温と深部体温の濃度依存的な低下及び熱放散反応の亢進が観察された. ・セロトニン再取り込み阻害剤(Fluoxetine)を体温調節中枢に投与したが,運動能力及び体温調節反応に顕著な変動は観察されなかった. 以上の結果は,安静時及び運動中の体温調節中枢における神経伝達物質が,体温調節機構や中枢を介した疲労に関与していることを支持するものである.他の神経伝達の役割については,さらに検討を進める必要がある.
|