初年度は、全身性の慢性暑熱負荷によりマウスに暑熱環境への適応を獲得させ得るかどうか、またこの様なマウスの運動耐性が通常環境下飼育のマウス(対照群)に比べ増強するかどうか、の2点について検証した。 ICRマウス(10〜12週令)を、室温34℃(相対湿度25〜35%)に保った暑熱環境において30日間飼育した暑熱群(n=8、ただし一匹死亡)と、室温24℃(相対湿度50%)保った通常環境において同期間飼育した対照群(n=10)の2群に分けた。今回は、暑熱環境への適応獲得の簡易指標とし、急性暑熱負荷(41℃に体温を2時間固定する)後の体重減少量を測定した。運動耐性の測定は、常圧常酸素下(室温24℃)において多段階漸増負荷法によるトレッドミル走(傾斜角5°)を疲労困憊まで行い、運動継続時間と運動終了直後の血中乳酸濃度および直腸温を求めた。 その結果、急性暑熱負荷後の体重減少量は対照群に比べ暑熱群が少ない傾向にあり、暑熱群のマウスが暑熱環境への適応を獲得している可能性のあることが示唆された。一方、トレッドミル走での運動継続時間は暑熱群よりも対照群が顕著に長く、暑熱適応したマウスよりも、むしろ通常マウスの方が高い運動耐性を示すことが示唆された。なお、運動終了直後の血中乳酸濃度および直腸温は暑熱群よりも対照群が高い値を示した。 暑熱群の運動耐性が低下した原因には、今回用いた慢性暑熱負荷がマウスの長期生存温度としては極限に近い高温だったことから行動量が減少し、そのため廃用性の運動機能減退が惹起していたことが考えられる。この問題は、慢性暑熱負荷中にもマウスに対し継続的に強制運動をさせることで解決可能と考え、現在慢性暑熱負荷中におけるマウスの運動量をコントロールした条件下での比較実験を開始した。
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