研究概要 |
運動時には活動筋への血流がすばやく増加する.一方,内臓領域や非活動筋といった組織では交感神経活動亢進による血管収縮が起こり,流入する血液量は逆に減少する.特に,腹部内臓血流は安静時の体循環における血流量(心拍出量)の約50%を占めており,運動時の筋血流増加に貢献する割合は大きいと考えられる.すでにヒトを対象とした研究で,運動時に腹部内臓血流は減少すると報告されている.しかし,腹腔内の血管は異なる機能を持つ臓器へ血液を供給するために分岐しているにもかかわらず,複数の内臓血管を測定した研究は少ない. そこで今年度はまず実験1として,動的な脚自転車エルゴメータ運動時の腹部内臓血流応答の地域性について,特に運動開始直後の経時的変化に着目して検討した.被検者は健康な一般成人女性8名(21-30歳)で,安静3分の後,負荷40Wの脚自転車エルゴメータ運動を半仰臥位で4分間行った.プロトコールを通して,右腎動脈(RA),上腸間膜動脈(SMA)および脾動脈(SA)の血流速度(BV)を超音波ドップラー法を用いて常に血管を描画しながら連続測定した.加えて,平均動脈血圧(MAP)と心拍数(HR)が同時に測定された.血管収縮の程度を示す指標である血管;抵抗指数(m)は,MAPをBVで除することにより算出した.運動時のMAP, HRは安静時と比較して共に有意な増加を示した.RAおよびSAのBVは,運動が開始すると即座に安静時の値から有意に低下し,運動終了時まで低下したままであった.また,それら両動脈のRIは,運動開始直後には変化せず,およそ30秒後から有意な増加がみられた.一方,SMAのBVおよびRIには運動による有意な変化が認められなかった.これらの結果より,低強度の動的運動時,ヒト腹部内臓血流応答は支配される器官・組織が異なる各動脈血管によって,その応答に差異(地域性)のあることが示唆された.
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