研究概要 |
ストレッチトレーニングによって筋・腱の弾性特性がどのように変化し,また,関節柔軟性改善に貢献するかを,平均年齢57歳(55〜64歳)の健常な男女6名(男性3名,女性3名)を対象として調べた. 3週間のストレッチトレーニング(膝関節完全伸展位,足部背屈15〜30度)を行った結果,トレーニング前後における腓腹筋スティフネスの減少率に関して,トレーニング足と非トレーニング足の間に有意な差が認められた.このことから,ストレッチトレーニングにより,腓腹筋の柔軟性が高まった事が明らかにされた.従来の研究では,関節レベルでの柔軟性のみを評価していたため,ストレッチトレーニングによる関節レベルでの柔軟性の向上が,筋や腱の柔軟性向上によるものか,それとも他の組織(靭帯,関節包,皮膚)の柔軟性向上によるものかは明らかにされてこなかった.本研究結果は,ヒト生体を対象として初めて,ストレッチトレーニングにより筋の柔軟性が向上する事を定量的に示した. 一方,腓腹筋を除いた足関節回り組織(ヒラメ筋,靭帯,関節包,皮膚)のスティフネスには有意な減少が認められなかった.これは,腓腹筋以外に柔軟性向上が生じなかった事を示唆する.被験者の内省報告によると,ストレッチ中,つっぱり感を感じるのは腓腹筋筋腹の部分で,足部やヒラメ筋(遠位部)付近には大きなつっぱり感を感じていなかった.こうした部位による感覚の差異が,各部位に対するストレッチの強度を反映しているものだとすれば,本研究におけるストレッチトレーニングは,腓腹筋に対しては強度が高く,ヒラメ筋や足関節周りの皮膚や靭帯,関節包に対しては強度が低かったかも知れない.それにより,腓腹筋のみ柔軟性が向上し,他の組織に有意な柔軟性向上が認められなかったという結果が得られた可能性が考えられる.
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