介護現場で重篤なストレッサーとなっているものに、いわゆる「攻撃行動」がある。ここでいう「攻撃行動」とは、認知症患者が介護者に対して示す「ののしる」「おどす」「わめく」「たたく」「つかむ」「ける」「押す」「ものを投げる」「ひっかく」「かむ」「変な音をたてる」などの行為をさす。本研究は「攻撃行動」がうみだす介護ストレスの軽減を目的としている。ストレスの精神的負担を規定する要因の一つに、ストレッサーに対する当事者の意味づけがある。意味づけを構成する要素のなかでも、ストレスフルな出来事がなぜ生じるのかという原因帰属は、精神的負担の程度を大きく規定することが知られている。3年計画の初年度にあたる今年は、探索研究として、ベテラン介護者が「攻撃行動」に対しておこなう原因帰属と対応法の内容を幅広く収集し、そこから精神的負担の軽減に結びつく原因帰属の特徴を明らかにすることを目的とした。はじめに介護職従事者35名を対象とした質問紙調査をおこなった。その結果、「攻撃的行動」が生じる主な原因は、患者に欲求不満を生みだすような介護の仕方であり、介護の仕方を改善することにより「攻撃的行動」をコントロールできると考えられていることが明らかになった。つづいて質問紙調査の回答者8名に対してより詳細な面接調査をおこなった。その結果、「攻撃的行動」を生みだす原因は、介護の仕方の他にも、患者と介護者の相性があわないことなどがあり、これらの原因をコントロールすることは難しいと考えられていることが明らかになった。以上の調査結果から、状況に応じて複数の原因帰属を使い分け、対応の仕方を柔軟に変えることが、介護ストレスの軽減に有効であるという仮説が導き出された。本年度の成果を踏まえて、来年度は関東地方在住の介護者を無作為抽出し、質問紙調査を実施することで、本仮説を定量的に検証していく予定である。
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